最高裁判所第二小法廷 昭和27(れ)11 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人三輸寿壮の上告趣意第一点について。
論旨は原判決の憲法違反を主張するけれども、実質は刑法三八条三項の解釈に関
する在来の最高裁判所判例を違法なりと非難するものである。
しかし、自然犯たると行政犯たるとを問はず、犯意の成立には違法の認識を必要
としないのであつて(昭和二三年(れ)二〇二号、同年七月一四日大法廷判決。昭
和二四年(れ)二二七六号、同年一一月二八日第三小法廷判決。昭和二四年(れ)
一六九四号、同二六年一一月一五日第一小法廷判決参照)、今、にわかに右判例を
変更しなければならない理由を見出すことはできない。よつて論旨は採用し難い。
同第二点について。
記録に徴するのに、本件被告事件につき昭和二一年八月八日第一審の有罪判決が
言渡され、これに対し被告人から控訴の申立をなしたところ、控訴審の第一回公判
期日が昭和二二年六月三日に開かれ、爾来五回に及ぶ公判手続を経た上、昭和二六
年五月一日判決の言渡があつたのである。蓋し、本件事案は被告人のほか原審にお
ける共同被告人五名を含む相当複雑な案件であり、又、共同被告人のうちには所在
不明となつたため、審理を分離されたごとき事情も右遅延の原因となつたものと認
められる。そして仮に裁判(審理)が迅速を欠き憲法三七条一項に違反したとして
も、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合であるから上告の理由とす
ることができないことは当裁判の判例とするところである(昭和二三年(れ)一〇
七一号、同年一二月二二日大法廷判決参照)。論旨は理由がない。
弁護人吉野和喜与の上告趣意について。
しかし原審が所論の各聴取書を証拠として採用したのは、聴取書に表された自白
- 1 -
に任意性ありとしたがためである。その自白に証拠能力があるかどうかを決定する
ことは事実審たる原審の自由裁量に委ねられていること、その自由裁量は合理的判
断に基くものでなければならず、経験則に反するものであつてはならないことは当
裁判所の判例とするところであるが(昭和二五年(れ)六二二号、二六年八月一日
大法廷判決)、原審の判断には何等経験則違反はないのである。従つて論旨は憲法
違反の前提を欠き採用することができない。
よつて刑訴施行法三条の二、刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
昭和二七年五月二日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 霜 山 精 一
裁判官 栗 山 茂
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 谷 村 唯 一 郎
- 2 -